2017年2月17日金曜日

柄でも無い事 その六十




 前の閑話で妻と山中で待ち合わせて里湯へ行ったら、男湯が混んでいたと書いた。一月の晦日に一人で高取山から里湯へ行ったら、もっと混んでいた。
 ロッカーの一番下段が幾つか空いているのみだった。今迄にこんな騒ぎは無い。下段を使ったのも、勿論初めてだ。湯船は広い癖に人で一杯、カランも順番待ちの有様だった。
 二月初めの土曜日に又々同コースを行ったが、里湯は避けて久し振りに梵天荘で入浴した。去年の十一月末以来である。
 例に依って12Kgを狭い玄関に置き、声を掛けると脳梗塞の爺さんが現れた。「初めてですかーあ」と言われても、もう驚かない。「何度か来てますから」と答えて石段登って風呂場へ向かった。
 湯殿の戸を開けたら、目隠し板のひし形の小窓から陽が何条も差し込み、其れが湯気の為に見事に光る線となって湯船に注いでいた。
 「おーー!」と言う光景だ。小さな宿ならではの事だろう。湯船が小振りなんて何て事もない。何せ独り占めなんだから。光の筋の中の入浴は心地良いものだ。湯の中にも光が差し込むんだから。
 風呂から出てフロントへ行くと、今度は女将が出て来た。パートのおばちゃんもいたので、予約客がいるのだろう。その諸君は渋い所を狙ってるのだろうね。普通は陣屋か大和だろう。駅から近いので。
 尤も物好きは、あたしみたくわざわざ12Kg背負っても行く訳なんでね。
 女将が「一寸と待って」とボールペンを取り出した。梵天荘の名前入りである。しかもライトも付いている。ライトは不要だと思ったが、其れは言わないで有り難く頂戴した。
 小さな宿を不自由な足で経営している。立派なものである。宿には申し訳ないのだが、人が来ないで静かな侭でいて欲しいけど、其れはあくまであたしの我儘ですなあ。

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