2016年5月9日月曜日

閑話 その百八十九




 雪を採って戻るとテントはほぼ出来上がっていたが、藪の中の斜面の少々の雪上、出入りは枝が邪魔だが仕方ない。何より良いのは稜線を僅かに外れているので風が当たらい。
 単独の男性が降りて来た。
男性「いや、凄い風なんで引き返しました」
私「上は酷いでしょうね」
男性「歩けないほどです。低気圧は発達中だそうですよ」
 嬉しい情報だ、今夜は荒れるだろう。雨が降り出したので酒も余りやらずに寝る。テントが煽られ出した。うつらうつらを繰り返す。
 四日の朝を迎えたが雨と風。万が一晴れたらピストンに出掛ける、とは言っても殆ど期待は出来ない状況だ。
 ゆっくり朝食をとってお茶を飲んでいると雨音が途絶えた。外はガス。これじゃ駄目だなと言い合っているうちに日が射して来た。Yが表を覗いて、山が見える!と叫ぶ。
 何たる幸運、願い通りの展開だ。早速身支度を整えて、藪を掻き分けテントを出る。煩い藪のお蔭で風から守られたのだから文句は言えない。
 ガスは激しく流れ、真っ白になったり視界が開けたりを繰り返し乍ら、青空になってゆく。昨日登った諸君は強風のピストンか、小屋泊まりだろう。小屋の諸君は雨の中早々に下ったと思われる。詰まり、山には我々のみと言う事だ。
 平標にはワンピッチで到着。雲海の上には夏山と思われる峰々が立ち並んでいる。こんな春山って有るのかい?現に有る。

 二人占めの山頂を楽しみ下りに掛かると数パーティと擦れ違う。皆若者だ。雨が上がると同時に飛び出したのだろう。素早い諸君で有る。我々は、天候回復を確認する迄動かなかった。だって、ガスの頂上なんて嫌だし、朝からバーボンをチビチビやっていたので。
 前日と異なり風が無い。日差しは強い。下りで大汗をかく羽目になり、テントの前の登山道で、微風を受けて体を冷やす有様だった。
 続きます。

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