2025年7月2日水曜日

閑話番外 その百七十四

 

 Yの両膝に痛みが出て山歩きは無理な状態だとは前に書いた。当分治る見込みはなさそうなのだ。平地を歩くにもびっこを引く様子だ。一年二年は掛かるだろう。

 Yはあたしの八歳下の未年だが、山ではあたしの十年から十五年後の姿を見せていた。見事に予知的存在である。

 「花立からが辛いんですよ」「え、あと二十分じゃないの、何が辛いの?一登りだろうよ」。それから十年後、よーっく分かったですよ。先ず花立小屋から頂上迄が大変。昔は直ぐそこが頂上だったのに。そして塔迄が遠い事、とても辛くなったですよお。

 「下りでバネが効かなくて、思う様に下れないんですよ」「え、膝が笑うの?」「笑うんじゃなくて、踏ん張りが効かないの」。へー、笑わないってどんな塩梅なんかなあ?よーっく分かったですよ。膝は笑わないのだけど、力が入らない。依ってバランスが偉く悪くなって思う様に下れない。これは困る。Yはしょっちゅう下れなくなっていたが、これだったのか、大変だっただろうなあ。

 「あ、つった!」「どこだ?」「両腿」「そりゃダメだな、この上で幕営にしよう」。何度かそんなやり取りがあった。大室山が多かった。一度は”この上”がなく、上下探したがやや平すらなく、相当坂になったテントで暮らした。よーっく分かったですよ。ザックの重さが腿に掛かってつるんです。つったら終わりだから、騙し騙し行くですよ。

 Yはよく、車やバスを降りる時膝がグネリとなって、転がりそうになった。膝に力が入らないのだ。電車の乗換で歩いている時、一寸とバランスを崩すともういけない。見事に尻もちをついちまう。周りの人が驚いて「大丈夫ですか!」と飛んで来てくれる。「大丈夫です」と立ち上がるバツの悪さを聞いた。よーっく分かったですよ。この間の大山の帰り、バスを降りる時に危なかった。あたしはYの真面目なお弟子さんですなw

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