両神山は奥秩父の末端の山で、あたしは登った事がない。埼玉県では一番遭難が多い山として名高い。頂上付近の岩場の所為かな。
例に依ってユーチューブがタネ元です。六十二年前だから大昔、二十才と二十一才の花も恥らう女性二人が日帰りで両神山へ登った。時期はヤバくも十一月末である。その日は天気も良く、日帰りなので軽装で出発、山頂から少し外れて昼食、下りで道を間違えた。岩場では道が分かり辛いのだ。
暫く下って間違いに気付くが、引き返さずに闇雲と歩き回った。典型的な初心者遭難である。下りで迷ったら引き返すのが鉄則、そうしなかった登山者はほぼ亡くなっている。
秋の日はつるべ落とし、暗くなりつつあるのでビバークを決意する。とは言っても食料も水も防寒具もなーーんにもない。夜は氷点下4℃にも下がる。でも二人は朝を迎えた。そして又一日中彷徨を続けて日暮れを迎える。
自分の位置も分からないのに良く歩き回れるものだと思うが、地図も磁石もないのだ、歩き回るしかなかったのだ。二晩目はよりキツかっただろうが、朝を迎える。若さだ!
そして、と書くのも嫌になるが、一日彷徨して夜を迎える。三晩目は絶望的だったろうが朝を迎える! 四日目は雨から雪、最悪だ。少し歩いて二十一才が動けなくなり、二十才が必ず助けを呼んで来るから、と歩き出すが直に歩けない事に気付く。どうせ歩けないならと二十一才の所に戻ろうとして、その近くで力尽きて倒れた。
勿論捜索隊は活動中だった。三人のチームが微かな人声の様なものを聞く。耳をすますと、二十才と二十一才が微かに呼び交わしている声だった。あたしはこのくだりで思わず泣けてしまった。互いに相手を思う気持ちが奇跡の生還となった。褒めるとこなぞ一つもないお粗末な遭難だが、助け合って励まし合って三晩も耐えたのは立派だ、の一言です。


